「遺言書」ない場合には、被相続人(亡くなった方)の財産は、法律上では、亡くなった瞬間に、相続人全員の法定相続分の割合で共有していることになります。
遺産分割の協議が成立しなければ、法定相続人全員で共有している状態が続きます。
法定相続人全員の共有状況が続けば、預貯金は凍結されたままで払戻しはできず、また、不動産は、法定相続人全員が共有している土地を売却する際には、共有者全員(法定相続人全員)の合意が必要になります。
しかし、全体の分割協議の合意を得ていない場合、不動産のみ、相続人全員の合意を得ることは、極めて困難となります。
よって、遺言書がない場合には、法定相続による相続人全員で遺産分割の協議(各相続人が「何を相続するか」について記名捺印(実印)した書面作成)し、相続人全員の合意の遺産分割協議書をもって、遺産を分割します。
もし、相続人同士で協議が整わず遺産分割協議ができない場合には、家庭裁判所に申し立てをして、調停分割、または、審判分割の方法で解決することになります。
家庭裁判所に委ねた場合には、時間と費用(弁護士費用等)がかかるとともに、協議不調の諸要因を考慮しても、結果として、法定相続に準じた審判となり、家裁の審判・解決されても、相続人間の信頼関係は破綻してしまいます。できることなら、相続人全員による「遺産分割協議」により合意を得る努力を行うことが大切です。
遺言書の作成のメリットは、次のとおりです。
(1)相続人同士がモメることなく、スムーズに、相続手続きができる
遺言書を残すことで、相続手続きにおいて、相続人同士の考えや思惑が異なることから、モメることは確実に減ります。
一つ一つの相続財産を「誰に、どう分配するか」を決めるのは非常に大変です。遺言書の中で「相続人の誰に、何をどの割合で相続させるか」を事前に決めることにより、各相続人の心痛がなく、分割後の各相続人の信頼関係の悪化を招くことなく、家族の平穏が確保されます。
(2)相続人全員の協議による合意を得る「遺産分割協議書の作成」が不要
遺言書がないと「遺産分割協議書」を相続人全員で行なう必要がありますが、遺言書で遺産分割をしていると、遺産分割協議は不要になります。
(3)法定相続人でない「子の妻」や「孫」などにも財産の分割ができる。
法定相続人に子の妻や孫などは入っていませんが、遺言書に記載しておけば、財産の分割は可能です。
自筆証書遺言と公正証書遺言のそれぞれのメリット、デメリットは下記のとおりです。
◆公正証書遺言 メリット(長所)
(1)法律の専門家である「公証人」が確認するため、作成、形式面での誤りよる遺言書が無効となることはない。
(2)公証役場が遺言書の原本を保管するため、紛失や改ざんの心配がない。
(3)遺言に書きたい内容を公証人に伝えれば良いため、文字が書けなくい状態でも作成できる。
(4)亡くなった後に、家庭裁判所での「遺言書の検認」が必要なく、すぐに相続の手続きをすることができる。
◆公正証書遺言 デメリット(短所)
(1)公証人手数料が必要なため、遺言書の作成費用がかかる。
(2)作成する際には、公証人のほか、証人2名の立ち合いが必要になる。
(3)公証人や証人の立合が必要なため、直ぐには遺言書が作成きない。
◆自筆証書遺言 メリット(長所)
(1)自分だけで遺言を作成できるため、基本的に費用は不要。
(2)自分の都合・タイミングで紙とペンと朱肉があれば遺言を書くことができる。
(3)誰からも関与されず遺言書の作成でき、秘密にできる。
◆自筆証書遺言 デメリット(短所)
(1)遺言書の書き方に不備があると無効になる(無効になりやすい)。
(2)遺言の保管方法が難しい。紛失・発見されない・捨てられる恐れがある。
(3)遺言の内容を改ざんされてしまう恐れがある。
(4)亡くなった後に、遺言書を開封せずに家庭裁判所に持参し「検認」を受けることが必要。手続きまでに時間がかかる。
(5)家庭裁判所の検認後に、すべての法定相続人に「遺言書」が送付され、遺言書の内容が知られる。
(6)自分で書くことが要件のため、「書くこと」ができない状態では、この方式では、遺言が作成できない。